【感想】君が望む永遠(PS2版)

 

重量級の作品です。頭を抱えながら最後まで頑張ってプレイしました。

 

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この想いは生まれ変わる

いつかきっと優しさに生まれ変わる

*パッケージ裏より引用

 

シナリオ概要

本作のシナリオは第一章と第二章で構成されています。 

第一章

7月4日から8月27日までの約2か月間を対象に、主人公たちの高校時代が描かれます。シナリオは一本道であり、ルート分岐はありません。焦点が当たるのはメインヒロインの涼宮 遙(すずみや はるか)と速瀬水月(はやせ みつき)の二人であり、サブヒロインは登場するだけに留まります。

友人である水月のお膳立てで主人公が遙と付き合い始め、8月27日に遙が事故に遭うまでの話です。

第二章

7月29日から8月下旬までの約1か月間を対象に(ヒロインによって終了日は異なる)、遙の事故から3年後の世界が描かれます。

事故以来、昏睡状態に陥てしまった遙。それに絶望して日常生活もままならなくなってしまった主人公は支えとなる存在が必要となり、水月と付き合い始めます。しかしある日、遙の意識が回復して……という展開です。

 

絵柄自体にはこれといった特徴はありませんが、立ち絵の表情やモーションの変化がかなり細かいです。頁送りするたびに変わるので正直テンポが崩れます。

 

音楽

シリアスな場面が多いので物悲しい感じの曲が多いです。BGMはおそらく主人公の心境に合わせて設定されています。主題歌: Rubmling heartsはいいぞ。

 

シナリオ感想

かなり重たい内容で全然まとまっていないのですが、できるだけ感じたことは書いておきたいと思います。

独断ですが、本筋のストーリーとの関わりの深さに応じて各ルートを順にメイン・乖離・独立の3つに分類します。

 

メインルート

本筋に沿った形で展開されるルート。主人公が曖昧な態度を取るせいで宙ぶらりんになっている状況に痺れを切らしたヒロインが激昂するという流れはどの話も大体同じです。

 

  • 涼宮 遙(すずみや はるか)

本作のメインヒロインのうちの一人。第一章で主人公と恋人関係になるが、事故により昏睡状態に陥ってしまう。三年後に目を覚ますが、恋人は親友だった水月に取られてしまっているという不憫な少女。絵本が好きで、将来は絵本作家になることを夢見ている。

[感想]

終盤に繰り広げられる主人公と水月の激烈な修羅場と水月の変貌ぶりに目も当てられませんでした。鬱ルートですね。遙エンドなんですが、半ば壊れたまま去っていく水月の方にプレイヤーの心は寄ると思います。

 

  • 速瀬 水月(はやせ みつき)

もう一人のメインヒロイン。第一章では主人公への好意に蓋をして、遙と主人公をくっつけるために立ち回った。遙の事故後、絶望に打ちひしがれる主人公を元気づけ、支えていくうちに恋人関係になる。見事、遙からかっさらうことに成功したというわけである。水泳が得意で実業団入りも決まっていたが、遙の事故がきっかけで記録が落ちて第二章の時点ではしがないOLとなっている。

[感想]

修羅場ってるのはこれも同じなんですが、このルートでは遙と水月の直接対決を見ることができます。なんかすっきりしますね。また、水月ルートではあるのですが、遙の強さが分かる場面を見ることができます。本当はつらいのに自分の気持ちを押し殺して主人公と水月の関係を認める姿、主人公からの同情などは望まないという毅然とした姿勢を見て、僕は……。ただこのルートの難点としては、なぜか終盤になって茜ちゃんが緊急参戦してきて無駄に複雑化してしまっているというところです。どうしてここに食い込んでくるのか……分からん。

 

  • 涼宮 茜(すずみや あかね)

遙の妹。第一章では主人公のことを「お兄ちゃん」と呼んで慕っているが、第二章開始時点では、主人公が遙を見捨てて水月と付き合っていることを知っているため、敵対している。水泳を習っていて水月のことを先輩として尊敬しているが、第二章開始時点では主人公の場合と同様に敵対している。

[感想]

いつも病院に見舞いに来ている姉想いの妹であると見せかけて、シナリオ中盤にて唐突に主人公への好意を告白、正妻戦争へ参加してきます。その後、彼女の言動の数々は姉(遙)を盾にした個人的な感情から来るものであったことが判明、挙句の果てには自分から遙に主人公への好意を暴露してしまいます。僕は震えましたね。ただ、エンディングが4種類用意されているのは、少しの選択の違いで結果が大きく変わってしまうほど人間関係が繊細になっていることを示しているようで良かったと思います。

 

乖離ルート

進めていくと本筋から雑に乖離していくルート。遙と水月の板挟みに耐えられなくなった主人公が他の女に逃げるという構図はどの話も変わりません。

 

  • 穂村 愛美(ほむら まなみ) 純愛編

遙が入院している病院に勤める准看護婦。第一章では保健委員として登場する。他人の感情の機微によく気づき、思いやることができる女の子。

[感想]

唯一自分を許してくれる愛美に主人公が逃げてしまう話です。主人公が自分から三股かけておきながら「遙も水月も愛美も傷つけないためにはどうしたらいいんだ?」なんてことを考えており、もはやギャグでした。

 

  • 大空寺 あゆ(だいくうじ あゆ)

主人公のバイト先の同僚であり、大空寺グループの令嬢でもある。主人公とは犬猿の仲であり、バイト先ではいつも言い争いをしている。キレると「お前なんか、猫のうんこ踏めっ!!」と言う。

[感想]

あゆとの馬鹿らしいやり取りをして辛い現実から目を逸らす主人公。ある日、あゆから純粋な好意を向けられたことで、主人公は自分の遙や水月に対する好意は純粋なものではなく、好きでなければならないという責任感から出ているものだということに気づきます。ですが、主人公はその後もどっちつかずの態度を取り続けており、耐えかねた水月が彼の部屋に突撃、修羅場となってしまいます。怖かったのは、逆ギレした主人公が何食わぬ顔であゆをその現場に呼び寄せたことですね。それで水月とあゆがバチバチやって水月が出ていき、それっきりになるという流れなんですが、ちょっと雑じゃないですか? しかもこのルート、遙に対しては別れを切り出さないまま終わってしまいます。なんでなん?

 

  • 玉野 まゆ(たまの まゆ)

主人公のバイト先の新人。時代劇が好きなせいか使う言葉が古めかしく、時々何を言っているのか分からない。いつも笑顔で何事にも一生懸命だがドジっ子であり、皿は割りまくるわ、壁にぶつかって怪我するわで周りの人間が大忙し。

[感想]

無制限の癒しを与えてくれるまゆに主人公が逃げてしまうという流れでルートインします。彼女と結ばれるために主人公がやるべきことが明確で、一番分かりやすい話ではありましたが、メインヒロインとの絶縁の仕方が一番雑なルートでもあります。特に水月はひどくて、留守電で別れ話を切り出し、それっきりになってしまいます。

 

独立ルート

本筋から離れていった後に独自路線を突き進むルート。もうほぼ別ゲーな気がします。

 

ご存知の方もいると思いますが、別名は『緑の悪魔』です。主人公に突き放されたことによって現れた穂村愛美の真の姿です。彼女の狂った行動の一部始終を以下に記します。

  • 主人公の部屋の合鍵を作り、勝手に侵入して洗濯物をしていく。
  • 衝動的に主人公を2階から突き落とし、気を失った彼を部屋に運び、手錠につないで監禁する。
  • 主人公のアパートを勝手に解約。バイト先にも退職の連絡をする。
  • 主人公と一緒に住んでいることを遙と水月に伝える。

[感想]

主人公は人間関係を完全に破壊され、マナマナしか頼ることができなくなります。気狂い女と人間性の欠片もない生活を送るうちに主人公も気狂いになってしまいます。やらんほうがええルートですね。やってる内にこっちまで気がおかしくなります。

親から見放されずっと孤独だった故に常識的な愛情表現が分からず、狂気じみた言動を取ってしまうというのは、ヒロイン独自のバックグラウンドを反映した『永遠』の在り方の一つではあるかもしれませんが、あまりにも本筋から離れすぎていてどういう捉え方をしていいのか分かりませんでした。しかも無駄にエピローグ長いし……。これは究極のバッドエンドですね。

 

  • 天川 蛍(あまかわ ほたる)

遙の病院に勤める看護婦。先天性の重病を抱えており、幼い頃は病院浸りの生活を送っていた。そのため世間のことをあまり知らないまま大人になってしまっている。持ち前の明るさで病院内では人気者。

[感想]

主人公が煩わしい現実からの逃げ場として蛍を選ぶという流れは、サブで分類したルートと同じなのですが、メインシナリオを殺しかねないほどにエンディングが重いです。重病を抱えているということからラストはどのようになるのか大体予想はつきましたが、主人公との関係も浅いサブ中のサブ的な立ち位置でそのようなラストに持っていかれても、個人的にはあまり感動できませんでしたね。別ゲーとして、彼女をメインヒロインに据えたシナリオなら話は別だと思いますが。

 

違和感について

プレイ中は常に違和感があり、頭が重かったです。おそらく以下の4つが原因だと思います。

 

1.鳴海 孝之(なるみ たかゆき)という存在

発売から約20年、今なおギャルゲー界にその威光を留める稀代のヘタレ主人公です。その並外れたヘタレ具合でプレイヤーの頭を悩ませます。彼がいなければこの作品は成り立ちませんし、必要な存在であることは確かなんですが。正直やる前は舐めてました。こいつ、ただ者じゃねえぞ。

自分への戒めという意味も込めて、彼の性格や目撃した言動の数々をここに書き留めておきます。

  • 優しすぎるため他人の責任まで全て自分一人で背負い込もうとする。他人が悲しんでいる様子を見るくらいなら、自分が代わって苦しむほうが良いと考えている。
  • 遙の事故をきっかけとして、罪悪感や逃避からしか他人に想いを向けられなくなってしまっている。(実際、遙以外のヒロインとの関係は罪悪感や逃避が始発点となっていると思います。そういった負の側面から生まれる愛情が偽物だとは断言できませんが、主人公が純粋な愛情を向けることができたのは遙だけであるという理由で、僕は遙派です。)
  • 自分の行動が矛盾していることは理解しているが、認めると動けなくなってしまうため、理屈を立てて正当化する。
  • 一度何かを決めても必ず相反する考えが湧いてきて、思考が堂々巡りになる。いつまでもそんな調子では駄目であることは分かっているので一応行動するが、中途半端なためヒロインを前にすると腰が引けて気持ちがぶれてしまう。そうやって戸惑っている孝之を見て、結局はヒロインが先に感づいてしまうことがほとんど。
  • 常に煮え切らないため、肝心なところで何も言えない。ヒロインに問い詰められると黙り込んでしまう。耐えられなくなると開き直って逆ギレする。まゆルートにて目撃した以下のやり取りには流石に笑ってしまいました。

【茜】「本当なんですね」

【茜】「他に好きな人がいるって」

【孝之】「……いたとしたらなんだって言うんだ?」

【孝之】「その子はこんな風にオレを困らせないんだよ!」

 

彼はおそらく自分がこの作品を複雑にしていることを理解しています。確信犯ですね。以下の独白をご確認ください。

結局のところ、どんなに綺麗事を言っても、ふたりのうちのどちらかを選ぶという構図は変わらない。

基本は……とてもシンプルなはずなんだ。

それを複雑にしているのは……オレのせいなのか? やっぱり……オレが悪いんだろうか?

 

2.サブヒロインのルートにおけるメインヒロインの扱い

もしかしたらこの前提から間違っているのかもしれませんが、僕はこのゲームを「三角関係をテーマにした作品」だという認識のもとプレイしていました。そのため、メインヒロインである遙と水月のどちらかを選ぶためにある物語というのは崩れないものであり、サブヒロインはあくまでもそれを引き立てる役として配置されているのだと思っていました。ですがプレイしてみると、どのサブヒロインのルートでもメインヒロイン(遙・水月)は邪険に扱われ、雑にフェードアウトしてしまっています。引き立てるどころか、本筋のストーリーがサブルートを進めるにあたっての障害となってしまっているように思いました。ルート分岐するまでプレイヤーが見てきたのは遙と水月を中心とした物語であり、二人の間で揺れ動く主人公です。それを一気にさらっと断ち切られてしまうと、わざわざ第一章を設けてまで描かれた物語が何の意味もなかったかのように感じられます。サブヒロインのエンドに至っても主人公およびプレイヤーが遙と水月の影を引きずるように丁寧に絶縁してほしいですね。

 

3.第二章の複雑性

何もかも第二章に詰め込みすぎて複雑になっている気がします。第二章開始時点で既に主人公は二股をかけているのに、その上さらに他のヒロインに手を出すなんて……頭が痛いです……。しかも、サブヒロインはサブヒロインでそれぞれ悩みを持っているので、考えることが多すぎます。上記の「2」も詰め込みすぎで尺が足りなくなっていることが原因になっている気がします。

これについては下記の通り作中でメタ発言を確認できました。

……登場人物が増えた。四人だけでも、オレのキャパはいっぱいいっぱいだったのに。

*「四人」とは主人公と水月、遙、慎二(主人公の友人)のこと。

 

4.第一章と第二章の間の空白

第二章開始時点から付きまとう違和感の原因はこれだと思います。遙の事故から三年間の出来事については、主人公のモノローグで簡単に説明がありますが、彼は事実を述べているだけなので遙を取り巻く登場人物の考え・心情が三年間でどう変わっていったのかは分からず、十分に補完できていないように感じます。特に不自然なのは水月であり、第二章では一貫して自分が主人公と付き合っていることにほとんど何の後ろめたさも感じていないように見えます。第一章では友情(遙)と愛情(主人公)の間で揺れていた水月が、第二章で遙が目覚めた後に彼女の容体を案じることはせず、主人公の心が遙に寄ってしまうのではないかということばかりを気にしていて、「いつ遙に私達が付き合っていることを言うの?」と主人公を急かしてばかり。それほど気持ちが固まっているということは分かるんですが、仮にも親友だった遙を裏切っているわけなので、どういう過程を経てそこまで振り切るに至ったかは知りたいところです。プレイヤーにとっては画面に見えていることが全てなので、この空白の期間も本編に組み込んで欲しかったです。

 

見たいと思うシナリオ

プレイ中に感じたことを踏まえ、こんなシナリオがあったらいいなというのを書きます。

 

事故が起きない『if』のシナリオ

遙の事故という重荷を排した、純粋な三角関係が見たいです。このシナリオだと僕は水月派になるかもしれません。ヒロインもメイン・サブ合わせて4人なのでコンパクトにまとまって良いと思います。というかこの『if』の世界、Special Fan Discで解放されているみたいですね。僕が思っている通りのものなのかどうか気になりますね。買ってみようかなあ。

 

三章立てのシナリオ

本作の第一章と第二章の間に章を差し込み、『WHITE ALBUM2』みたく三章立てに構成を変えたものが見てみたいですね。遙か水月のどちらかを選ぶための物語です。新第二章では事故から2年後、主人公が遙の父親から「自分の人生を大事にしなさい」と言われて見舞いに行かなくなってからを描いてほしいです。サブヒロインはこの章に配置し、水月と別れる形でのみ分岐させます。遙本人は登場せず、主人公に忘れさせない程度に、遙の父親や茜ちゃんを通して状態が伝えられるに留めます。新第三章で遙が目覚め、主人公は今まで支えてくれた水月か、それとも初めての恋人である遙か、どちらかを選ぶことを迫られます。

個人的には、三角関係のストーリーではプレイヤーから見て対立するヒロインが同等に『不憫』であることが重要だと考えています。正直本作は遙の方が圧倒的に不憫であり、水月に勝ち目はないように思われます。彼女が根気強く主人公を支える姿が描かれていないためです。間に章を設けて水月のその姿をプレイヤーに見せつけた後、サブヒロインのルートに流れることで、初めて彼女の不憫ゲージは溜まります。新第三章の開始時点において、事故で恋人と離れ離れになってしまったという強烈な不憫さを持つ遙とタメを張るぐらいに、新第二章では水月を振りまくって彼女を不憫なヒロインに仕立て上げる必要があります。

※ちなみに本当の第三章は、第二章の後日談として存在します。

 

その他

  • 明らかに同じ場面で内容も変わらないのに、テキストの微妙な違いで既読スキップが機能しないことが多々ありました。ちょっとやりづらかったです。
  • 一度だけですが、テキストがバグって意味不明な文章が表示されることがありました。この辺の時代のゲームになるとちょいちょい起こることなのかもしれないですね。
  • 攻略順で感じ方が変わると思います。最後を茜⇒水月⇒遙にすると鬱っぽい余韻、茜⇒遙⇒水月にすると比較的爽やかな余韻を得られるのではないかと思います。

 

ちょっと疲れたので、次は軽めのゲームをやろうと思います。