【考察】最果てのイマ

  

rdice.hatenablog.com

 

感想を書きましたが(上記リンク参照)、なんかもやもやするので考えたことを書いておきます。理解できていない箇所も多くあるので、気が向いたらもう一度シナリオ読み直して追記します。

※以下、ネタバレを多分に含みます。

 

シナリオについて

ループものなんですが、本作では実際にはループはしておらずイマジナリーネット(情報を保存する機能を持つ微生物である『ミーム』を脳に寄生させることによって多数の人間の意識を繋いで構築するネットワークのこと)の管理人である『イマ』がバラバラになった主人公の記憶を時系列順に並び替えたものだったということが最終的に分かります。場面が飛び飛びだったのは、間に何が起きたのかをプレイヤーに推測させる余地を与えるという物語上の演出であると同時に、『イマ』の仕業だったということの伏線にもなっています。

 

貴宮 忍(あてみや しのぶ)について

クラスSの現象行使者(超常現象を操ることのできる者)である彼。作中では『王』とも呼ばれています。ミームを散布して他人の脳に寄生させる能力を持ち、寄生された人間は敵性を喪失し、無条件で彼のことを愛するようになります。また、非常に高い再生能力も有しており、顔面を木っ端微塵に破壊されても瞬時に元に戻すことができます。無敵ですね。

彼の罪は二つあり、一つは『敵』を作り出してしまったことです。彼が度々予知していた『敵』とは、彼自身が形作ったイマジナリーネットによって膨大な知性が集積されたことで生まれた上位知性のようなものであり、その高度な演算処理によって負荷に耐えられなくなった端末(ミームが寄生した人間のこと)が次々にショートして死んでいったということだったと思います。その結果、世界人口は八十億人から一億人まで減ってしまいました。二つ目はヒロイン全員に手を出してしまったということです。『イマ』によってヒロインごとにルートとして配列されていますが、全ての場面が記憶の一部であるという事実から、彼が4人のヒロインと事を済ませているということが分かります。ハーレムエンドですね。けしからん(うらやましい)。

 

『聖域』について

忍は「当人たちの意思を侵害せず、かつ寂しくない程度に心を重ねることができる絶対的な距離」が存在すると考えており、その可能性を模索するために作られた集団が『聖域』だと言えます。他人を無条件で服従させる自身の力を彼は忌避しており、不必要に他人に干渉することを避けていました。けれども、幼い頃から施設育ちだったせいで機械のような合理的な考え方が沁みついてしまっており、他人と交流することで人間らしい心を形成しようとも考えていたんだと思います。他人とは深く関わりたくない一方、触れ合うべきだとも考えている。そうした矛盾が生み出した歪で中途半端な関係性が『聖域』なんだと思います。彼は『聖域』がいつか誰にとっても心の安らぐ場所になると信じていたようですが、実際には肌に合わず無理をして輪の中にいた人間もおり、沙也加からは、絶対的に誰もが満足できる距離など存在せず、適切な距離を求め続けた末に当人たちの納得と覚悟の上に成り立つのが人間関係なのだと指摘されます。

周りから見るとただ人付き合いの苦手な奴らが集まった停滞しているだけの虚しい集団であるというのが現実ですね。

 

沙也加と忍

沙也加は忍のことが好きだったんでしょうが、同時に忍がそのような感情を理解できないことも分かっていたんだと思います。しかし、その忍が沙也加のことを好きだと言いました。ここで問題なのは、忍は彼女に好意を抱いていたわけではなく、自分と同類に見えたが故に恋愛対象とすることが妥当であると合理的に判断したにすぎないということです。それに気づいた沙也加は、心を持っている自分とそうでない忍は別種の存在であり、(同類に見えるかもしれないが)実際には同類ではないのだと反論します。そして、そうやって感情を理解しないまま合理的に関係を結ぶことは、「人の心を学ぶ」という忍の目標に相反することなのではないかとも指摘します。

仮に忍に合わせる形で恋愛関係に進む場合、沙也加の考えた道は「真に忍の同類となること」と「今まで通り忍の同類に見えるように振る舞うこと」の二通りです。真に忍と同類になるということは、人の心を捨て機械的に行動するようになるということです。けれども、彼女は心を持っているおかげで忍から見て同類であるように振る舞っていられるのであり、心を捨ててしまえば沙也加はもはや今の沙也加ではなく、忍にとっては同類には見えなくなり、彼は離れていってしまう。また、今まで通り同類を演じるにしても、いつか自分はその抑圧に耐えられなくなる時が来る。どちらの道に進んでも上手くはいかないだろうと彼女は主張します。だから沙也加は、そういう関係を求めているのであれば『王』の力を使って強制的に支配してほしいと言ったのだと思います。

 

沙也加ルート1巡目のラスト

好きな感じなので引用しておきます。

忍「~~~♪」

 

どこかやつれた顔で、忍は歩く。

腕に沙也加を抱いて。

歌は流行歌だ。

疎い沙也加が、唯一好んだ流行歌。

カラオケに連れて行っても、決して歌おうとはしなかったけれど。

忍が歌うのは、楽しげに耳を傾けていた。

そして忍は二人で歩いていく。

遠くを目指して、歩いていく。

 

忍(外に行くんだ)

忍(二人で、歩いていくんだ)

忍(でもその前に)

忍(プチとマルや長老に、顔を見せていこう)

 

そして祈るのだ。

新たな二人の絶望的な門出を、どうか、

呪ってください―――

 

 

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