【感想】SF小説 その④

 

虚構に生きるオタク。

 

零式(海猫沢めろん

零式 (ハヤカワ文庫JA)

古本屋で見かけて雑に買って雑に読もうと思っていたんですが、期待以上に面白くて引き込まれてしまった作品。ジャンルとしては歴史改変ディストピアもの、みたいな感じでしょうか。疾走感のある文体、凄絶なアクションシーン、グロテスクな描写、そういったラノベ的表現と、時々挟まれる文学的・哲学的表現が奇妙に調和している印象を受けました。内面を垂れ流しているあたり明らかに思春期向けなんですが、僕には効いた。

 

氷(アンナ・カヴァン

氷 (ちくま文庫)

凍てついた氷の世界で、一人の少女を追い続ける男の話。なんだかよく分からないけど静謐で美しいものを見た気分になれます。現実と夢が入り混じった迷宮的描写、実在と幻影の狭間で揺れ動く”少女”、迫りくる冷酷な”氷”のビジョンにより、孤高の夢幻世界が完成しています。序盤からそんな具合なのでちょっと苦しいですが、中盤以降は線が整っていく感じがしました。カバーがかっこいい。

 

シリウスオラフ・ステープルドン

シリウス (ハヤカワ文庫 SF 191)

人間と同等、あるいはそれ以上の知能を備えた「シリウス」という犬の一生を綴った物語。理性と野性の葛藤を通して語られるのは、”人間”に対する徹底した思弁と、不条理に満ちた世界における霊的結合の刹那の輝きです。全編にわたって悲観的な傾向がありますが、シリウス、お前の気持ちは分かるぞ。人間も世の中もむつかしいね。

 

夏への扉(ロバート・A・ハインライン

夏への扉

これを読まずしてSF好きを公言していたとは......片腹痛いですね。タイムトラベルを扱った古典SFとしてかなり有名で、初出は1956年。しかし古臭さは感じられず、小難しい物理理論や複雑なタイムパラドックスも出てこないので、非常に読みやすく万人にオススメできる作品だと思います。作中では西暦2000年を未来として描いていますが、2020年となった現在、冷凍睡眠装置も、火星への定期航路も、滑走道路も、タイムマシンも存在しないという虚しさ。「こうはならんかったな......」と呟きながら読みました。

 

確率人間(ロバート・シルヴァーバーグ

確率人間 サンリオSF文庫(ロバート・シルバーバーグ 田村源二(訳 ...

未来透視を題材にした作品。序盤はただの政治ドラマですが、途中からSFっぽさが加わっていきます。二時間線理論という逆時間の並行宇宙を仮定した理論で、未来透視の原理を説明しています。未来が見えても周囲の人々が信じてくれなければ現在は変えられず、そうした透視能力を持つ人間の孤独と運命論的諦念が描かれた物語でした。一番の魅力は訳の上手さで、昔のSFにありがちな突然の夢幻パートも淀みなく読めました。

 

ペース上げていきたい。

以上。