【感想】SF小説 その⑥

 

時間系・並行世界系のSFでまとめました。

夏になると時を駆けたくなるね。

 

時間衝突(バリントン・J・ベイリー

時間衝突 (創元推理文庫)

時空を超えた戦争を描いた話。世界観やストーリーラインはありがちですが、注目すべきは、一つの時間線上で二つの〈現在〉が衝突するという突飛なアイデアです。その基となる時間論は奥の深いものですが、脱線せず自然な形で物語に絡めているところに著者のSF作家としての技量を感じます。いわゆるハードSFではないので、比較的読みやすく、おすすめです。

 

クォンタム・ファミリーズ(東 浩紀)

クォンタム・ファミリーズ (河出文庫)

オタクでありながら今まで東さんの著作に触れたことがなく、初めて読んだのがこちらになりました。並行世界を扱った作品で、読み進めていくと階層が連なり、重なり、交差し、最終的になんのこっちゃ分からなくなります。しかし、それも単に複雑なだけで図式化すると整理できそうな感じです。難解なのはプロットではなく、並行世界の考え方であり、量子論的とも哲学的ともいえる独自の発想を理解するのは骨が折れます。登場人物の名前からも分かる通り、往年のエロゲ(特にCLANNAD)の影響を受けているらしく、感動的なストーリーかと思いきや、個人的にはそこまで...という感じでした。今度「クリュセの魚」も読んでみますね。

 

10月1日では遅すぎる(フレッド・ホイル

野田昌宏文庫

世界の時間が分裂し、各時代が混在してしまう話。フランスは20世紀初頭に、ギリシャは紀元前5世紀に、ロシアは数千年先の未来に...という風にバラバラになってしまいます。悲観すべき状態ですが、飛行機で世界のあちこちを周って、どこがどの時代に属しているのか、ある時代と隣り合う別の時代の境界線はどこなのかを調査しているシーンでは冒険心がかきたてられます。小不思議(時間が分裂するのは大変なことなので小ではないが、プロット上では)⇒小不思議での生活⇒大不思議の流れは、昔のSFにありがちな王道の展開。だけどそれがいいんです。

 

紫色のクオリアうえお久光

紫色のクオリア (電撃文庫)

久しぶりに面白い!と思える作品に出会いました。やはりラノベが一番しっくりくるんだなと。人間がロボットに見える少女”ゆかり”と、彼女を死の運命から救い出すために数多の並行世界を渡り歩く少女”マナブ”の友情(百合?)物語です。過去を改変し、友人を裏切り、殺人を犯し、自らを捨てて他人として生き、ついには存在することも辞めてしまったマナブに対して、ゆかりが示した光の道とは......

中盤から怒涛の展開で整合性が取れてるのか分かりませんが、夢中になって気づいたら読み終わっていました。『あたし』が確定することで、無数の『あたし』は収束する(もしくは干渉を喪失する)。

 

ゲイルズバーグの春を愛す(ジャック・フィニイ

ゲイルズバーグの春を愛す (ハヤカワ文庫 FT 26)

時間SFに入れていいものか悩みますが、新城カズマの『サマー/タイム/トラベラー』にて頻出していたので一応載せます。イリノイ州ゲイルズバーグを舞台とした、30ページほどの短編小説です。SFというよりはファンタジーのテイストで、街の”過去”に出会うという不思議体験を、一人の新聞記者の視点から描いたものになります。短い作品ですが、風景描写が生き生きとして素晴らしく、ゲイルズバーグの古風で落ち着いた街並みが目の前に浮かんできます。おそらく都市開発の只中で書かれたのでしょうが、個性的な街並みが普遍的で無機質なものに変わっていく寂しさと、それでも”過去”は消え去ることなく我々の内に確かに残るのだというメッセージ性を感じました。実家の近所にあった田んぼが無くなって家が建っているのを見つけた時少し寂しかったりしますし、こうした感性は我々日本人にも通ずるものだと思います。

 

輪廻の蛇(ロバート・A・ハインライン

輪廻の蛇 (ハヤカワ文庫SF)

タイムパラドックス小説として有名な作品です。映画化作品『プリデスティネーション』を見たことがあったので、ちょっと味気なく感じたのですが、わずか数十ページの紙幅で複雑なタイムラインを展開させ、ラストに全てを畳めるのは流石の職人芸といえます。必要最低限の描写で構成されているので、あまりドラマ性を感じられず、そういう意味では映画の方がいいかなと思いました。”俺”の輪廻に飲まれよ。

 

タイム・リープ 上・下(高畑京一郎

タイム・リープ<上> あしたはきのう (電撃文庫)

こちらもまたパラドックスもの。あることをきっかけに時間を跳躍してしまった少女が、通常の時間線に戻るため、同級生の男の子と協力してリープの謎を解明していくお話です。リープ現象は一週間のうちで起こっており、少女は日曜から土曜までを行ったり来たりします。パズルの仕組みやタイムマップが示されているので分かりやすく、流れを理解しながら読むことができました。展開の仕方も素晴らしく、欠けていたピースが徐々に埋まって全体像が明らかになる感じで、純粋に読んでて楽しかったです。ちなみに、この作品における時間跳躍は、跳躍者当人の”意識”のみが移動する仕組みですが、この考え方は先に紹介した『10月1日では遅すぎる』の主要時間論、また『所有せざる人々』にて登場する”同時性理論”と似ています。時間SFの類型を掴んでいきたいと思います。

 

 

まあ、ぼちぼちね、読んでいきましょう。