【感想】SF小説 その⑦

 

SFマインドを維持するのは難しい。

 

金星応答なし(スタニスワフ・レム

最近レム人気が高まっていると勝手に思っているのですが、合ってますか?まあ、それとは関係なしに随分前から積んでいた本になります。500ページ近くあるのですが、訳が上手いのですらすら読めました。ロシアのツングースカ爆発の原因を宇宙船だったと仮定して、その宇宙船に積まれていた記録を頼りに金星へ調査に向かうお話です。話の流れが分かりやすく、金星で起こる様々な不思議を科学的観点から冷静に処理していく感じも面白いです。レムの処女長編として有名ですが、本人は若気の至り的作品だったと後悔していたそうです。確かに終盤は「人類」や「文明」など大きめのワードが出てきて、若い時に考えそうな事だなとは思いましたが、そんなに悩むことはないよ。

僕がすごいと思ったのは序盤で、ツングースカ爆発から宇宙船の記録が見つかるまでの変遷が説明されている箇所があるのですが、史実とフィクションの繋ぎ目が全然分からないんです。『ソラリス』を読んだ時も思いましたが、レムは虚構を構築するのが上手すぎます。

 

天の光はすべて星(フレドリック・ブラウン

いい歳のおじさんが本気で宇宙を目指す話。異様な熱量で周囲を巻き込んでいくタイプなので、実際にいたら普通に面倒なやつですが、その純粋さがどこか愛らしく「やれやれ手伝ってやるか」って思ってしまう気持ちもわからんでもないです。でも歳を取っても夢を追い続ける人ってかっこええなとは思いますね。

 

マゼラン雲(スタニスワフ・レム

太陽系外へ探査に乗り出す話。超巨大宇宙船の中に一つの社会を築き、幾世代にわたり宇宙を探査するという壮大な発想に裏打ちされた作品です。上記で取り上げた『金星応答なし』と同様に、この小説は”若い”。理由は二つあって、一つは別知性とのコミュニケーション可能性を説いている点、二つ目は過去の回想などを通して描かれる甘ったるいロマンス要素です。個人的にロマンチックなのは好きなので二つ目の要素はかなり刺さったのですが、硬派なSFを期待するとなんか違う感があるでしょうね。『ソラリス』に代表されるように、レムの基本思想は別知性とのコミュニケーション不可能性であり、それとは正反対の可能性を説いている点が一番異質に感じられるところでしょう。若さゆえの楽観主義、よく言えば夢のある物語です。僕は今まで読んだレム作品の中で一番好きでした。

 

ここから先は何もない(山田正紀

あまり内容覚えてないし、原本も手元になくて確認できないのですが、なんか小惑星に人間の骨が見つかって...インターネットの話をしていて...『星を継ぐもの』のオマージュだとかなんとか...凄腕のハッカーがいて...学者とか巻き込んで...事件の真相に近づいていく話なんですよね確か...ネットって怖!って思ったんです読み終わった時...

断片的な記憶なんだ...

 

スターメイカー(オラフ・ステープルドン

思弁SFの巨匠ステープルドンの代表作。待望でしたよこれは。文庫化すると聞いて飛び上がりましたね。まあ、めっちゃ喜んで買って結局1年近く寝かせたんですけどね...

面白いですが、読むのにかなり根気がいるのでおすすめはしません。

物語は大体下の図に示した通りです(読み終わったとき謎の活力で作った)

 

スローターハウス5カート・ヴォネガット

意識のタイムトラベルで生涯をいったりきたりする話。主人公のビリーは、ある時は大金持ち、ある時は別の惑星の動物園で見せ物にされ、ある時は第二次大戦下のドイツで死と隣り合わせだったりします。淡々とした語り口で、ブラックユーモアじみた表現が散見されますが、そうした軽い調子で血なまぐさい場面が描かれることで、命が軽んじられ、死の重大さが蔑ろにされていることが伝わってきます。名作なので一度は読んでみるといいかもしれません。

 

デューン 砂の惑星フランク・ハーバート

映画第二部が始まる前に読んでおこうと思いまして。いわゆるスペースオペラで、一発食わされて零落したアトレイデ家が、敵のハルコンネン家を打ち負かすまでの復讐劇です。対立構造が明確なので割と分かりやすく、はまればすらすら読めてしまうと思います。生態学とか、愛と憎悪、生と死など、まあ大長編なので色んなテーマありますよね。

映画楽しみです。

 

未来のイヴヴィリエ・ド・リラダン

これは比較的最近読んだので覚えているぞ。恋人のアリシアの外面と内面のギャップに悩んでいるエウォルド卿は、ある日マッドサイエンティストエジソンの元を訪れます。エジソンは秘密裏にハダリーというアンドロイドを製作しており、エウォルド卿の悩みを聞いた彼は、ハダリーの外見をアリシアそっくりに改造して、”理想の女性”としてエウォルド卿に提供することを申し出る、という流れ。

問題なのは、アリシアの外面と内面のギャップが、ある程度客観的なものなのか、エウォルド卿の主観だけで語られているものなのか、という点だと思います。普通に読み解くと、エウォルド卿の理想が高すぎるだけで、アリシアはまあ普通の女性って感じだと思うのですが、一方でアリシアは「人間離れした美しさ」を備えていて、確かにめちゃくちゃ綺麗な人がギャルっぽい言葉遣いとかしてるとギャップを感じるかもしれないなとは思います。しかし、その美しさが具体的にどんなものなのか、エウォルド卿の理想とする「内面」とは何なのか、そのあたりが曖昧なので終始もやもやした感じでした。最初の方は、おそらくエウォルド卿自身も自分の理想がどんなものか正確には定義できていないのではと思ったのですが、最後の方でアリシアに扮したハダリーがなんか意味不明な電波系の話をしている様子に、彼は満足したようでした。では、外面が綺麗な電波系女子が彼の理想だったということでしょうか...?

人間の内面という流動的なものを、ハダリーという人工物に固定化しようとしていること。それがこの小説の一番不快なポイントです。その人が思うその人の印象、他人から見たその人の印象は、当たり前ですが違っていて、その相互作用でその人の内面は常に変わります。エウォルド卿の気持ち悪さは、彼の持つ一方的な印象が、アリシアの内面として正しいものだと考えていることです。ポジティブな捉え方をすれば、エウォルド卿が恋人の理想の内面を追い求める話ですが、そもそも本質的に「理想の内面」などというものは定義できないために、物語としてまとまったとしても「これ合ってますか?」と思うのでしょうね。

 

百年文通(伴名練)

コミック百合姫の表紙で連載されていた小説。現代と大正時代がつながる百合物語で、きっとあなたが思うとおりの感動が得られます。僕はちょいちょいうるっときました。通勤中の電車内でな。

優しい気持ちになれるのでおすすめです。百年文通はいいぞ。

 

きっと他にもSF読んだだろうに、悲しいかな、記憶を失っている...